(カナダ編 1) ジャンボをとめた話


芸術の秋にふさわしく3つ続いた写真展を盛況に終えることができてやっと一息、といったところで今度は一ヶ月前に帰国したばかりのアメリカ西部の写真展をぜひ、という声が起こり急遽その準備にかかることになりました。

半月前に開いた研究会で参加者の多くが力作を大型プリントで提出したことと旅行の参加者を上回る見学者が加わったことで大いに盛り上がったので写真展を開かないと今回の旅は終わらないようです。日程と会場は[Whats new]をご覧下さい。

(カナダ編 1) ジャンボをとめた話

今から25年前の話。なんだ、そんな古い話なぞ聞きたくないよ、なんて言わずに今の海外旅行がどれほど楽か、を知るためにも少しお耳を拝借。

もちろん私の初めての海外旅行。「旅行」というより撮影だけが目的なので「取材」と呼ぶべきかもしれません。広大な風景を求めてカナダ・アメリカを2ヶ月かけて横断するという初めてにしては大掛かりな旅です。しかも一人旅。

当時はまだ大阪(伊丹)から羽田経由の便しかありません。羽田に到着後、今度は国際線なので税関で「外国製品の持ち出し」の手続きが必要です。当時、ほとんどのプロはアメリカ製のフィルムを使っていたので出国時に届をしておかないと帰国時に関税をかけられるからです。2ヶ月間で使用する大判フィルム(4×5インチサイズ)を2000枚以上持ち出すのですから手続きをしておかないと大変なことになります。

「そのフィルムはどこにありますか?」

こう尋ねられてハッとしました。大阪でスーツケースを預ける時、荷物はカナダのバンクーバーまで、と言ってしまったのです。

「眼で確認できない限りハンコは押せません。」

さぁ大変!航空会社の係員に事情を話すと彼の顔から血の気が引いていくのがわかりました。荷物はほとんど積み込んだ後らしく、今から見つけ出すのは大変な手間がかかるとのこと。

「カンベンしてください…。」                    

係員に哀願するように言われても関税のことを思うとこちらも必死です。押し問答しているうちに彼のほうが根負けして急ぎ足で走り去りました。そのあと暫くの間無口な税関の職員と気まずい一時を過ごしながら待ちました。

30分ほどして先ほどの係員が汗だくになりながら私のスーツケースを運んで来てくれました。ホッとしながらも急いでスーツケースを開けてフィルムを探し出すのですが、人に見られながら荷物を探すのはイヤですねぇ。予備のカメラやレンズを下着でくるんでクッションにしているのが丸見え。やっとフィルムをそろえた時に時計を見ると出発時間をとっくに過ぎています。ヒコーキ大丈夫かなぁ…。こちらは冷や汗でビッショリ。

「これで全部です。」 フィルムの入った箱をそろえて出すと

「ハイ、では…。」                          

なんと、中身を一つずつ数えだしたのです。お役目とはいえこんなときは適当に、と言いたかったのですがじっと待つしかありません。やっと数え終わりハンコをもらうと荷物を元通りに戻して、出発ゲートへ急ぎます。もう1時間も過ぎている…。

あぁ、待ってくれていた! うれしくなって笑顔で飛び乗ったのですが機内は異様な雰囲気。乗客がいっせいに私に浴びせる冷たい視線を感じて状況を察知しました。私一人のためにこれだけの多くの乗客が1時間も待たされたようです。だから間違っても笑顔など見せてはならない、と言い聞かせながら席に付くとすぐにジャンボ機は離陸態勢に入りました。

出発初日からこの事態。やれやれ、どんな旅になるのやら…。

(つづく)