フランス編(1) 芸術の都 パリ(その2)


パリにはワインが似合う

結局ビールの次はワインにした。何も意地を張ることはない。郷に入れば郷に従え、だ。この国の料理にはワインが合うことが分かった。どの国でも気候や風土により料理とそれに合うアルコールが作られてきたのだ。各地の料理を何でも美味しく食べられることが旅行の仕事をする者の条件であり役得でもある。

外へ出てほろ酔い気分を覚ますため大通りに面したカフェに入った。カフェオーレを飲みながら通りを行き交う人を見ていると結構面白い。日本と違い色々な国の人がいろいろな表情をして通り過ぎる。カメラを取り出してみたが急ぎ足の人が多くてなかなか撮影が出来ない。ふと近くのテーブルのカップルに目が止まった。黒い帽子が似合うステキなパリジェンヌだった。通りからカメラを向けるとすぐに気付かれるが同じ客席からなので全然気が付かない。話に夢中の彼女を何枚か撮る事ができた。

大道芸人となる(?)

シャンゼリゼでのエピソードを二つ。

凱旋門を背景にしてカフェで憩う人々を写そうと三脚に大型カメラを取り付ける。カブリ布をかぶって構図を見ながら次第に道路側へ移って行った時だった。突然サイレンを鳴らしながらパトカーが目の前に止まった。一人の警官が降りてきてこちらに何か話し始めた。瞬く間に数人の警官が集まった。言葉がわからないのでキョトンとしていると一人が書類を見せながら僕の足元を指差している。どうやら道路から撮影する許可証を見せろと言っているようだ。そんなもんあらへん、と関西弁で答えて歩道に戻ると警官はいなくなった。ヨーロッパでは「公道」の認識が厳しい、と聞いていたがその通りだったのだ。それにしてもパリの警官はよほどヒマらしい…。

違う日にカフェを撮影していたらフィルムがなくなってしまった。快晴の好条件だったので撮りすぎて予定のフィルムを使い切ってしまったのだ。どこででも入れ替えできる小型カメラと違い大型カメラはやっかいである。フィルム一枚の大きさが 10cm×12.5p もある上に暗室で一枚ずつ専用のホルダーに入れなければならない。ホテルに戻る時間がもったいないので近くのカフェのテーブルにダークバッグ(携帯用の暗室袋)を置いて入れ替えを始めた。すると次第に人だかりができて、「何をやってんねん?」とフランス語で尋ねてくる。おそらく皆初めて見る物だろう。大道芸人になったような気分で入れ替えを終え、袋を開けた。中に横たわる地味なフィルムホルダーを見て皆ガッカリしたようだ。鳩でも飛び出せば大いに受けたことだろう。

芸術家優遇の街

ルーブル美術館へ撮影に出かけた。モナリザを始め有名な美術品がどっさりある。三脚は禁止だができれば使いたいので事務所へ出向き、プレスカードを提示して申請書にサインしたらOKが出た。その上、わずかな撮影料を払うと入場料は要らないという。他の美術館も入場料は取らなかった。

日本写真家協会の会員だというだけで芸術家として歓待してくれて「大いに勉強してください」と励まされているのである。素晴らしい国である。このような国を他には知らない。画家の多くがパリにやってきたのもうなずける。それまでは英語をゼッタイに話さない偏屈な国だと思っていたがそれだけ自国に誇りを持っているのだということが分かった。

さらに感心するのはエッフェル塔やポンピドゥ・センター、ルーブル美術館の中庭に出来たピラミッドなどのような革新的な建造物(作品)だ。いずれも出来た時には物議をかもした物だが現在ではすっかり定着している。芸術は常に反体制だといわれるがこの街では国営でそれがなされている感がして非常に興味深い。

保存か開発かでどの国も悩んでいるのだがこの国は両者をうまく融合させる不思議なエネルギーを持っているようである。同じく長い歴史を持つ古都・京都も同様のエネルギーを持ってはいるがパリから学ぶ事はまだまだありそうだ。つづく