第74回  こだわり歳時記

  東 風

立春とは名ばかりの寒い日が続いている。先日には珍しく雪が夕方まで降り続き、貴重な写真を撮ることができた。写真好きにとってはもう一、二回は降ってほしいものだが、多くの人は春を待ち望んでおられることだろう。
 

さて東風(こち)とは春に東から吹く風のことをいう。春風とも呼ばれ、菅原道真が大宰府へ左遷されるとき、愛していた庭の梅の花に別れを惜しんで詠んだ「東風吹かば にほひをこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」は有名である。

梅は別名を春告草あるいは匂草ともいい、独特の香りで春を告げる。桜とよく比較されるが、目で楽しむ桜に対し、梅は香りを楽しむものといわれる。花芽が一節につき一個のため、桃などに比べ開花時の華やかな印象は薄い。それが京の都に良く似合ったのか、平安時代には花といえば梅を指すほどであった。

市内上京区にある北野天満宮は菅原道真を主祭神とし、毎月25日に開かれる縁日は京都市民から「天神さん」の愛称で親しまれ、多くの参拝者や観光客で賑わう。

2月25日には「梅花祭」が催され、上七軒の芸・舞妓が境内でお茶を点てる姿はカメラファンには絶好の被写体である。この頃が梅の見ごろで、満開の紅梅と金色の釣灯ろうがお互いの美をたたえあっている。

上の写真の主題は梅であるが背景の灯ろうや社殿が重要な役目を果たしている。背景は主題を引き立てなければいけない。ドラマが主人公だけでは成立しないのと同じく、写真でも主題と関連性のある引き立て役が欠かせない。

先日開催した写真展会場で大勢の方から温かいお言葉を頂戴した。また、その後の東京展では「京都ファン」がいかに多いかを知ることができた。遠い地で京の都を思い浮かべていた道真公のように、全国のファンが京都に思いを寄せているのである。

そろそろ梅の香りを楽しみに出かけてみませんか。

(京都新聞 2008年2月13日掲載)