第42回  レンズ越しの風景

雨を写す

 まもなく梅雨に入る。またうっとうしい季節が来たな、と嘆いてはいけない。湿気が多くなるのは不快ではあるがこの時期でなければ写せないものがある。

 掲載の写真は梅宮大社(京都市右京区梅津)へ花菖蒲を写しに行った時のもの。降り始めは小雨だったが次第に大粒の雨となった。花菖蒲を大きく写す構図を急きょ変更。池を広く取り入れ、花は右下に小さくし、ピントも花ではなく降り注ぐ雨に合わせた。これで主題が「雨」だということが強調できた。
 雨が止む頃には水面にもやが立ったり、山に霧がかかったりしてまるで水墨画の世界となる。紫陽花などこの時期に咲く花は雨がよく似合う。濡れた花びらがひときわ美しい。また、葉先の雨滴をマクロレンズやクローズアップフィルターを使って接写すれば肉眼では見られないメルヘンの世界が写せる。

 一期一会というほどではないが撮影する時に最も大切なことは出会いを大切にすることだと思っている。晴れると思って撮影に出かけたのに雨となった時など天候を恨んだり中止したりせずに、そのとき出会った「雨」を写すべきである。

  若い頃、海外のビーチリゾートを取材中にハリケーンが来た。嵐では全く絵にならないので収まるまでホテルでじっとしていた。その後晴れ渡った写真を撮って帰国し、スポンサーにそのことを話すと暴風雨で荒れ狂うヤシの木をなぜ撮らなかったのか、と叱られた。せっかくの《出会い》を逃がしてしまったのだ。

 雨中では傘やレンズフードなどでカメラやレンズを濡らさないようにすべきだが、濡れた場合はどうすればいいか。ダイヤルやリング付近に水が入ると故障の原因となるのでタオルでよく拭き取っておく。そして帰宅したら湿っているバッグからカメラやレンズを取り出してよく乾燥させること。台所や風呂場など湿気が多いところには置かないという日頃の気配りも重要である。
 愛用のカメラをいつまでも大切にしましょう。

                                   (京都新聞より転載)