第39回  レンズ越しの風景

はねずの梅


 京都を訪れた観光客数が昨年一年間でついに4500万人を突破したという。すごい数である。好調な京都ブームに加えて外国人観光客増加などが主たる理由らしい。 
 私自身よく海外に出ていたせいか、京都を写す時に外国人のような目で見ることがある。ファインダーを覗いた時に、生まれ育った街でありながら旅先で初めて見たかのような新鮮な感動を覚える。1200年を越える歴史からにじみ出てくる伝統美が私にどんどん撮りなさい、と言っているようだ。そして最近は現在の姿を残さなければという責任をも感じるようになった。


 「日本に京都があってよかった」というポスターを見かけるがその通りだ。京都は日本人の心のふるさとなのだ。だから全国から、世界中から人々がやって来るのである。祇園も高台寺ねねの道も電柱がなくなりすっきりした。この勢いで、失われた景観を取り戻すことができればと思っていた矢先、京都市が景観保全100選に着手したと聞き、うれしくてならない。京都には美しい自然や文化財が多くあり、写真ファンにとっても絶好の撮影地なのである。


 小野小町で有名な随心院は季節ごとに美しい花が咲くお寺だ。中でも3月中旬に咲く遅咲きの梅は薄紅色のため「はねずの梅」と呼ばれ、八重の花が400坪の梅園に咲き乱れる。梅のアップから背景の山を取り入れたアングルまで色々な角度から写せるのが魅力だ。
 梅の花が終わりに近づく3月の最終日曜日に梅園の横で「はねず踊り」が催される。舞台の風流傘のまわりに梅の花笠を付け、はねず色の段絞りの小袖を着た少女たちが小野小町と深草少将に扮し、わらべ歌に合わせて踊る。その華やかさは「はねずの梅」と競い合うようでなんともあでやかである。
 この踊りが終わると京都の各所で桜が咲き始め、春本番を迎える。

                          (京都新聞より転載)