ヴェトナム編(3) ホーチミン


躍動する大都市

日本と同じく南北に細長いヴェトナムの中でフエはほぼ真中にあり、フエからホーチミンへはハノイからと同じぐらいの距離がある。1時間半の空の旅を終え、タンソンニャット国際空港に降り立つ。空港から市内までは約8キロあり、タクシーで20分程で着く。料金は6万ドン、と聞くと高く聞こえるが 5US$ぐらいだ。

予想通り、大阪に似た近代都市だ。ここはヴェトナム最大の商業都市で人口は400万を超える。早速街を歩いてみて驚いたのはオートバイの多さだ。日本製のミニバイクが所狭しと走り回っている。手を振ってシャッターを切ると白い帽子の女性が笑ってくれた。

並木の美しいドンコイ通りを歩くと正面に見えるのがサイゴン大教会である。ヴェトナム戦争が終結し解放されるまでこの地はサイゴンと呼ばれていたのでこの名が残る。正式名称は聖母マリア教会で、ふたつの尖塔を持つ美しいカトリック教会だ。クリスマスには派手な電飾が灯されるというからその時期に撮影に来たいものだ。

忘れてはならないもの

教会の左手正面に堂々とそびえるのが統一会堂。南ヴェトナム政権時代、独立宮殿と呼ばれた旧大統領官邸だ。1975年、解放軍の戦車が無血入城を果たした瞬間をテレビで見た人にはなじみの建物である。それだけに「観光写真」として写すことがはばかられ、一枚も撮影できなかった。

また、あの戦争の歴史を戦車や大砲などの戦争遺物や当時の写真などの展示で綴る「戦争証跡博物館」がある。ここも入り口を一枚撮影しただけで、館内の凄惨なパネルや枯葉剤によるホルマリン漬けの奇形胎児などの展示に衝撃を受けぼう然と立ち尽くしてしまった。カメラを持っていることすら忘れてしまっていた。当時28歳だった自分が何もできなかったことがひどく悔やまれた。

しかし、二人の日本人カメラマンが命がけで戦っていた。ピュリッツアー賞を受賞した故沢田教一氏と石川文洋氏である。二人の作品は同館の写真展示室「レクイエム」で見ることができるのでホーチミンへ来た人はぜひ訪ねてほしい。

この博物館はいわば「サイゴンの原爆ドーム」。戦争で多くの人命が失われたのだ。永遠に忘れてはならないし風化させてはならない。

ヴェトナム人のパワー

ホーチミン市から北西に70キロ走ったところにあるクチの地下トンネルを訪ねた。アメリカ軍がたび重なる空爆と枯葉剤を投下したにもかかわらず、250キロに及ぶこの手掘りのトンネルを最後まで攻略することができなかった所だ。

地下トンネルは整備され、観光用に広げられた一部のトンネルに入ることができる。腰をかがめて中に入ると、狭い通路は迷路のごとく二又、三又に分かれ、ムッとする臭いと湿気が襲ってくる。この中に作戦会議室をはじめ、台所や寝室、病院まであるというから驚きだ。超大国を相手に戦い抜いたこの国の民のパワーはどこから出てくるのだろうか。

それは長い中国諸王朝への抵抗の中で形成された「愛国主義」を伝統の最も重要な価値としたことからくるものだといわれる。それに、ホーチミンが提唱したカンボジヤ、ラオスの解放運動との連携という目標が加わり、第二次大戦後のフランスとアメリカに対する果敢な抵抗運動の原動力になったのである。

さらに、もともとこの国には「王の法律も村の垣根まで」ということわざがあり、上は弱く民は強い、というのが伝統だという。それに、「主人の命令も内主(主婦)の言葉に負ける」と言われるほど女性の地位が高い。これらのパワーが結集して超大国に勝利したのだ。

クチからの帰途、農作業を終え、収穫物を積み込んでいる光景に出会った。カメラを構えると女性が笑っている。激しい戦いの歴史とは裏腹に、今はのどかな田園風景が広がっていた。

メコンクルーズ

ホーチミン市から南西へ1時間半、メコンデルタ入り口の町ミトーに到着。小さなモーター付の木造船に乗り込んで中州の島に向けて出発する。両岸に低く続くジャングルを眺めながら、茶色く濁ったメコン川の雄大な流れの中を行く。時折すれ違う小舟を見やりながらのんびりと川風に吹かれるのが心地よい。

途中から支流のミトー川に入り、川幅がぐっと狭くなる。ニッパヤシのトンネルをくぐるように奥へ奥へと進む。ジャングルクルーズを堪能した頃に舟は果樹園に到着。パイナップルやリュウガン、バナナ、パパイヤなどのフルーツが食べ放題だ。ランチが付くクルーズもあるので予約時に確認するといい。

再び市街で

活気のある市街に戻ってきた。停留所でバスを待つ学生をスナップ。英文のテキストを一心に読みふけっていた。勤勉なところは日本人と同じだ。

市の中心に位置する人民委員会の建物の前で学生達を写した。教科書がぎっしり詰まった大きなかばんが目立つ。陽気な笑みの中に知性がにじみ出ている。

結婚式を終えたばかりの新婚さん。後方のホーおじさん(ホーチミン主席)の像が二人の門出を祝福しているようだ。おめでとう!

南北に細長い国土を持つ農耕民族であること、ほとんどの国民が仏教徒であり勤勉であることなど日本人と共通するところが非常に多い。その上、親日的で数々の親切を受けながら半月を超える取材旅行を無事に終えることができた。

ヴェトナムの皆さん、カム オン(ありがとう)!             

             参考文献 地球の歩き方「ベトナム」