ヴェトナム編(2) 麗しの古都 フエ

心のふるさと

ハノイからフエへは1時間20分の空の旅。今度は国内線でヴェトナム航空なのでアオザイのスチュワーデスが迎えてくれる。やはりステキだ。世界中の航空機の乗務員が、それぞれの国の民族衣装だったらどんなに楽しいだろう。

フエの空港から市街まで車で20分で到着。フエはヴェトナム最後の王朝、阮(グエン)朝の都が置かれた町で、フォーン川のほとりに王宮、寺院、皇帝廟と風格ある建築物が点在する。これら古の建造物群は1993年にヴェトナム初の世界遺産に認定された。フエはヴェトナム人の心のふるさとなのだ。

ホテルの部屋の窓から目の前を流れるフォーン川を見ていると心が癒される。明日の朝、この川を船でミンマン帝廟まで行くツアーがあるのでツアーデスクで予約。ところが午後のタクシーの予約はできない、というので少し歩いた所にあるタクシー会社へ出かけた。会社、といっても自転車屋も兼ねた質素な店で、不安ではあったが気持ち良く応対してくれて値段も安い。何よりも気に入ったのはそのおじさんの笑顔である。旅人の心を和ませてくれる。この人が来てくれたらいいのになぁ…。

美味の国

ホテルへの帰途、こぎれいなレストランに入り夕食をとる。ヴェトナム人はきれい好きなのでどんな小さなレストランでも安心である。今年の春、SARSに感染したアジアの国の中でこの国が一番に撲滅宣言をしたのもうなずける。

また、料理が日本人によく合う。中華の影響を受けているが、さほど脂っこくなく激辛味も少ないので何でも美味しく食べられる。名物のフォー(うどん)は私のような麺好きにはたまらない。フエには「ブン・ボー・フエ」という名物麺があり、このスープがうまい。

ホテルへ戻るとカラフルな伝統民族衣装の人々が一杯いるので驚いた。聞くと、観光客が衣装を借りて変身し、これから宮廷料理を楽しむところだという。しまった!知らずに惜しいことをした。でも、もう手遅れでおなかも一杯だ。次回にグループで参加するのを楽しみにしてあきらめたが、かなりのご馳走が出るそうだ。料理だけなら一人20USドル、演奏と衣装付きで40USドル位らしい。皆さんもフエへ行ったら変身して楽しみましょう!

遺跡めぐり(ボートで)

翌朝、ホテルのすぐ裏にあるボート乗り場から2つの遺跡を巡るボートツアーに乗船する。日本人女性の2人連れと私の3人だけである。「このボートツアーをよく知っていましたね。」と声をかけると彼女たちは旅行社に勤めていて今回はプライベートで来たのだという。

岸を離れてスピードが出ると風が心地良い。けっこう川幅が広く、多くの船が行き交う。船上の人に手を振るとほとんどの人が笑顔を見せて手を振ってくれる。撮影しながら旅先での開放感を満喫する。

こちらより大きな観光ボートや夫婦で収穫物を運ぶ小船などいろいろな船と出会うがどれもスピーカーから音楽など聞こえず、静かなのがいい。

しばらくすると右手に美しい塔が見えてきた。フエのシンボル的な塔があることで知られているティエンムー寺である。船を下りて、目の前の小高い丘をあがると高さ21mの七層八角形の塔が堂々と聳え立つ。

塔を撮影した後、丘からフォーン川を見下ろしたらすばらしい光景が広がっている。適当な位置に船がくるのを待ってシャッターを切る。

再び乗船してもう少し下流のミンマン帝廟へ向かう。今度は船着場から10分ほど歩かねばならないが、途中にある民家の人たちをスナップしたり、飼われている水牛を写したりして楽しい道程だった。ミンマン帝廟は建物の構成は中国風でその造りと美しさはフエでも一、ニを争うといわれているが三日月型の蓮池以外はそれほど写真的には魅力がなかったのが残念。


遺跡めぐり(タクシーで)

ボートツアーを終えてホテルへ戻った後、昼食をとってから玄関へ行くとタクシーが待っていた。ドライバーの顔を見ると昨夕のにこやかなおじさんだ。ホッとする。この歳になると初対面で肌が合うかどうか、大体わかる。それだけ歳をとったのだと思うと哀しいけれど…。

今度はクルマでないと行けない遺跡を巡る。まずは市内から10`離れた小高い斜面にあるカイディン帝廟だ。

写真を見ればわかるように西洋風の建築で芸術的にもすぐれた廟である。階段の手すりには龍が刻まれ、階段の上には馬や象や役人の石像が立ち、廟を守っている。その一つ一つにカメラを向けたくなる。廟の内部も磁器やガラスで彩られ、フエの遺跡では最も見応えがある。

次に訪ねたのがトゥドゥック帝廟。広々とした別荘風の造りで、大きな蓮池にある釣殿と涼しさを味わうための木造の建物が面白い。奥にある皇帝の墓へ行く途中に出会ったガイドさんに写真を撮らせてもらった。

次の写真はドンカイン帝廟からトゥヒェウ寺への途中で撮影した田園風景。なんとものどかなものだ。


王宮の涙

さて次の日は「本命」の阮朝王宮へ行く。正面の午門(王宮門)まで来ると荘厳さに心を打たれる。

門を入るとすぐ上にあがる階段があり、この楼閣から太和殿を見た眺望がこれである。昨日見て廻った廟にはない気品を感じる。

太和殿は中国の紫禁城を真似て造られたがヴェトナム戦争中の1968年に完全に破壊され、1970年に再建された。この奥にあった建物も全て破壊され、何も残っていない。かの大国は「正義」の名のもとに、この国を空爆し続けた挙句、敗れたことも忘れて今は中東で同じ行為を繰り返している。何が正義なのか…かっては偉容を誇った建築群が廃墟となっているのを目の当りにして、同じアジア人として悔しくて流れ出る涙を止めることができなかった。

幾たびの 戦い終えて 山眠る


この国の未来

いささか暗い気持ちになって王宮を出た。フォーン川にかかる橋を渡り、ホー・チ・ミンをはじめ近代ヴェトナム史に名を残す要人たちが学んだ学校であるクオック・ホックへ向かう。途中で下校してくる高校生たちに会い、あわててカメラを向ける。ファインダーで彼らの明るい表情を見て、暗くなっていた心が救われた。この国の未来は彼らが支えるのだ。

校門までやって来た。女生徒の白いアオザイが眩しい。

フエは白いアオザイが似合う文化都市である。日本でいえば「京都」なのだ。次に行く商業都市のホーチミンには「大阪」のイメージを抱いているのだがはたしてどうだろうか…。
(つづく)