第9回 遥かなる大西部(2)


今月の更新、大変遅くなってしまいました。ここまで遅くなったのは初めてで、「まだですか?]というメールや「何回アクセスしても今月のがまだ読めない…」などの苦情を聞くと何とかしなければと思うのですがどうしようもなくここまで延びてしまいました。

何しろ今月から年末までに私が出品する写真展が6つあり、その内の2つを昨日に終えました。ひとつは私の主宰する「フォトグループYOU」の第1回展でコンタックスサロン京都にて昨日まで開催されました。連日大賑わいで延べ6日間で2000人を越すというギャラリー担当者も驚くほどの入場者数を達成して昨夜の打ち上げ会は大いに盛り上がりました。人に見てもらうために展覧会をするのですから多くの方が来て下さったという事はありがたいことです。ご来場者にお礼申し上げます。

もうひとつは14日から府立文化芸術会館(TEL075-222-1046)で始まった「第29回京都写真芸術展」。ここは広い美術展会場ですので1200×960の大型プリント「The Creation」を展示していますのでぜひご覧ください。48名の写真家が参加して19日(日)まで開催されています。

18日(土)から View21(TEL075-721-5517)で始まる「エーゲ海への誘い」写真展も私が同行した撮影旅行の参加者による楽しい写真が展示されますのでぜひどうぞ。

それでは連載の続編です。

プロとアマの同時取材(その3)

これで Tさんが観光地をあまり望んでいないことがわかりましたが急に予定を変更するわけにも行かず、初めて西海岸を訪れたTさんを案内するためにざっと名所を回る事にしました。パックツアーではなく二人旅なのですから気に入らなければ次へ行けばいいのですから…。

そこで まずLAに最も近いヨットハーバーのマリナデルレイを訪ねました。その中の「フィッシャーマンズビレッジ」は一年中観光客の絶えない人気スポットです。プロのKさんは早速白いボートを遠景に取り入れオシャレな女性をあしらって観光写真にまとめました。アマのTさんはそこに乱舞していたペリカンの顔を望遠ズームで見事にとらえています。やはり二人のレンズは全く違う方向に向けられていますね。

左はKさん撮影、 右はTさん撮影


そのあとダウンタウンのリトルトーキョーや高級ブティックが集まるロデオドライブなどを撮影してホテルの玄関まで帰ってきました。

「しまった!」
車を降りる時にキーを抜かずにドアを閉めてしまった瞬間、Kさんは思わず声を上げてしまいました。あわててドアのノブに手を入れて開けようとしますが開きません。すでに助手席のドアをロックして降りていたTさんもKさんの顔色を見て事態を察知したようです。なぜドアを閉めただけでロックされるのか?日本車の場合はドアを閉める時にドアノブを引き起こしながらでなければロックされないように安全装置が付いているのに…。Kさんは空港でキーを受け取った時にスペアキーがない事に不安を感じたことを思い出しました。一人旅の時にはすぐにスペアを作るのですが今回は二人なので少し油断をしたようです。

ああ、アメ車め…。二人で嘆きながら周りに目をやると何と大勢の着飾った男女がこの二人と動かなくなった車を見ているではありませんか。時は夕暮れ、場所はホテルの正面玄関、ディナーに出かける正装した人々でますます混雑してくる始末。「オーマイゴッド!」(おお神よ!)とおおげさなジェスチャーをするとホテルマンが苦笑いをしながらやって来て、針金や工具で作業を始めました。さすがアメ車の本場(?)だけに慣れているようで二人は照れて赤くなりながらも早く作業が終る事を祈りながら手伝いました。ところが新車のためか窓に隙間がなく手間取る事一時間あまり、やっとドアが開いた時は日本語で「やったぁ!」、作業を見守っていた客からも拍手が起こり思わぬところで日米親善の感激のシーンとなりました。

そこで元気に車に乗り込もうとした二人ですがドアの窓際に付いたスリ傷を見て再び元気がなくなってしまいました。針金で悪戦苦闘した痕跡が多くのスリ傷となっています。「修理代高いだろうなぁ…」と心配するTさんに何かを思い出したようにKさんが明るく声をかけます。「レンタカーだから大丈夫だよ。小さいキズなんか見もしないから。アメリカの良さはそこにある!」アメリカの短所と長所とをほとんど同時に体験した二人はそれなりに納得して遅くなった夕食を取りに出かけました。このハプニングはKさんにとっては「ロスで起きた時間のロス」でくやしい限りだった様ですが、Tさんはどうだったでしょうか?普通の観光旅行では味わえない貴重なケイケンだった、と感じたかも…。

さて次の日は映画の街ハリウッドへ。ここはLAを代表する観光地だけにKさんはどうしてもTさんを案内したかったところです。ところがいつでも人がいっぱいで人間嫌いのTさんが喜んでくれるかどうか心配したのですがそこは映画好きのTさん、結構張りきって「ハリウッドの休日」を堪能したようです。

さあ いよいよ明日はLAともお別れです。それまでに撮影したものをKさんは机の上に並べてみました。右の写真を見れば分かると思いますがフィルムケースにナンバーが書かれたシールが貼ってあります。これは撮影順を表すもので何番のフィルムに何が写っているかをメモしておけば後で現像する時にある程度の露出のコントロールができます。たとえば70番に大切なものが写っているとしますとその前後の69番か71番を先に現像すれば大体分かりますのでそれより明るくしたければ増感現像を、反対に暗くしたければ減感現像を指示すればよいわけです。失敗が許されないプロの安全対策のひとつです。

さて翌日、二人はラスベガスへ。空港に着き、レンタカーを借りるやすぐに大型スーパーへ行きスペアキーを作った事は言うまでもありません。何しろここから大西部へ向かえば周遊して帰ってくるまでに2000〜3000キロを走るわけでクルマのトラブルはゴメンです。たのむぜ、アメ車よ!

「ここなら運転してもいいよ。」
LAでは一度もハンドルを握らなかったTさんがさすがに広い道路やだだっ広い駐車場を見てそう言いました。ラスベガスに2日いるので慣らし運転にはピッタリかも。さっそくTさんの運転でダウンタウンへ。助手席から久しぶりのベガスの街を眺めてその変貌ぶりに驚きました。かっての賭博の街のイメージはなく、すっかりテーマパークの街となって女性や子供が安心して歩けるようになっているのです。素晴らしい発展といって良いでしょう。

下の写真はフリーモントストリートで美女をスナップしたものです。左はKさんで声をかけて正面から撮影していますが、右のTさんは気付かれないようにワキから撮影しています。
 
左・Kさん撮影

                                                                下・Tさん撮影

この2枚はどちらも良さがあるのでプロもアマもないのですがこの頃からTさんがKさんのことを「ヘンなオジさん」と呼ぶようになってきました。なぜそう呼ばれるか分からないのでKさんが尋ねると写す相手にヘンな言動をするからだとか。これはプロがよく使う手で相手に安心してもらうために少し大げさなジェスチャーなどをすることを言ってるようなんですがもう少し適切な言葉がないものかとKさんは口惜しく思います。でもTさんも日ごとに「ヘンなオジさん」になっていくのでまあいいか、と思うようになってきました。

次の2枚もベガスでの比較。左はこれぞ ラスベガス、という完璧な観光写真。右はホテルの部屋から写した「都市」の心象風景。Tさんにとっては目の前の「感動するもの」がすべてで、アメリカであろうとベガスであろうと無関係。プロとアマの違いが分かっていただけますか?

上はKさん撮影、下はTさん撮影


つづく