第69回  こだわり歳時記

  名 月 


厳しい残暑が続いていたが、蝉の声が法師蝉や哀愁を帯びた蜩に変わり、虫の音も聞こえるようになった。いよいよ秋の到来である。

さて、八月末の皆既月食をテレビなどでご覧になった方が多いだろう。満月がすっぽりと地球の影に入るという一大ドラマであり、暗いニュースが多い中で我々を楽しませてくれた。

日本最古の物語といわれる竹取物語は月から来たかぐや姫が主人公である。月は日本人が昔から好んだモチーフの一つ。暮れゆく西空に三日月がか細く姿を見せたかと思うと半月もたたないうちに今度は満月が東山から姿を現す。その美しさはいつも大きな感動を与えてくれる。

上の写真は京都市南区の東寺五重塔と満月である。普通に撮ると月が小さすぎてインパクトが薄れるので夕刻に塔だけを写して、あとで同じフィルムに望遠レンズを使って月を大きく写し込んだ。

写真の使命は記録であるから創作や演出をしてはならないといわれるが表現方法が多彩になった現代に、もっと自由な写真の世界があってもいいのではないだろうか。報道、ドキュメントの分野では前者の姿勢が鉄則であるが、美術としての写真表現では「独創性」が問われるべきであると思う。

写真を業としてから35年になるが、いまだに飽きずに続けられるのは作品に自分の個性が生かせるからである。世界に一つしかないものを作ろうという意気込みが作家の命なのだ。

納得するものができた時には疲れが吹っ飛ぶほどの充足感を味わえるが、行き詰まった時などには焦燥感にかられて落ち込んでしまう。それでも、いい作品を創りたい一心で絶対に手を抜かない。こうした作家の姿勢が若者の心を捉え、芸術に関心を持つ人が増えてきたことは喜ばしいことだ。

今月の27日が仲秋の名月。かぐや姫が帰って行く月に思いを馳せながらゆっくりと観賞しましょう。

              (京都新聞 2007年9月12日掲載)