第59回  こだわり歳時記

柿  


春に花を咲かせた植物が実りの時を迎えた。今まさに「収穫の時」である。秋には鮮やかな紅葉を写す人は多いが、取り入れを終えた田畑や実った果実などを写す人は少ない。

上の写真は左京区の曼殊院近くで撮影した柿である。遠くの山と重ねることで、とても市内とは思えない「山里」のイメージとなった。このように枝一杯に実が成る「柿たわわ」も見事だが、来年の豊作を祈って木に一つだけ採らずに残しておく「木守柿」(こもりがき)には冬が迫った情感がただよう。

柿には地方の名がついたものが多く、京都では洛西の大枝(おおえ)で採れる富有柿が有名で、ほかに信濃柿、庄内柿、次郎柿など約千種類もあるという。まさに日本を代表する果物だ。
そして、柿が赤くなると医者が青くなる、という諺がある。柿には、糖分やビタミンが豊富にあるだけでなく、二日酔い防止やカゼの予防などに効果があるといわれる。特に、柿の渋は高血圧の予防に効くそうだ。

「渋」は体に良いのである。
人生でも、渋味がある、と言う時は落ち着いた深い味わいがあることを言う。最近は派手なものよりも渋いものに興味を持つようになった。


京都の美術界で活躍されている写真家のI氏が、今秋に「すすき」の写真集を出版される。すすきは柿以上に渋いテーマである。少し先輩である氏がそのような心境になってきた、と話されていたのが心に残る。
私は来年還暦を迎える団塊の世代の一人である。「壮」を過ぎ、「老」に入るのかと思うとわびしくなるが、これからは開き直って「渋」を楽しみたいと考えている。
 

鮮やかな秋を写すのもいいけれど、一度「渋味のある秋」にカメラを向けてみよう。
                  (京都新聞 11月8日掲載)