第57回  こだわり歳時記

小さい秋  

秋のお彼岸が近づき爽やかな季節となった。
さて、お彼岸といえばお墓参り。なぜこの両者が結びつくのか定かでないが、おそらく日本独自の習俗が仏教と結びついたと考えられる。むつかしいことを考えずに、良い気候となったのだからお参りに来てよ、と仏さんが呼んでいるのであろう。


秋のお墓参りでは楽しみなことがある。それは萩という「小さい秋」に出会えることだ。その年の気候により、咲き具合に違いはあるが、小さな花たちが風に揺れているのを見ると「いよいよ秋ですよ」とささやいているようで心が和む。
萩は落葉低木の総称で、三枚の小葉と蝶形の花がかわいい。ふつうは紅紫色だが白色もあり、秋の七草のひとつである。


上の写真は右京区の嵯峨二尊院で撮影したものだが、低く重なり合って咲く姿を見て、次の句を思い出した。

低く垂れその上に垂れ萩の花  高野素十


時々、写真教室の受講生から「何を写せばいいのかわからない」と質問されることがある。「どう写せば…」と問われたら技術の問題であるから「こう写せば」と答えやすい。ところが「何を写せば…」には一瞬返答に詰まる。それは技術ではなく、感性の問題なのだ。


技術は教えることができるが感性は教えられない。参道に咲く萩に気づかずに素通りすればおしまいである。可憐な花を見て、秋が来たことを心で感じてこそ、それをいかに表現するか、という次のステップに移ることができるのだ。
普段から物事に感動する心を大切にしよう。写す対象は目の前にいくらでもあるのですよ。

                (京都新聞 9月12日掲載)