第56回  こだわり歳時記

送り火  


まもなく送り火である。京の人々はこの火を見て夏の終わりを感じる。今年は梅雨明けがかなり遅れたので短い夏となった。


以前、ある奉仕団体の写真同好会で「宝ヶ池の四季」展を開催しようということになり、妙法の送り火を私が担当することになった。「妙」と「法」が離れており、いろいろなビルに上がって探したが良い場所が見つからない。
地図を片手に今度は山に登って探した。最後にたどり着いたのは大文字山の山頂だった。「大」の火の粉を背中に浴びながら「妙法」を撮影したのが上の写真である。


この場所からは松ヶ崎と美しい北山連峰を望むことができ、探してやってきた甲斐があった。点火は午後8時の大文字から始まり、10分に妙法、15分に舟形と左大文字、そして20分に鳥居形の順である。


実際に点火される時刻になると真っ暗になって、背景の山は写らない。まだ明るい間に三脚にカメラを固定して山並みだけを写しておき、同じフィルムに、点火された火文字を写せばこのようになる。この技法を多重露光といい、一眼レフならほとんどのカメラで可能である。デジタル一眼でも最新機種では可能となった。


この行事が「大文字焼き」と呼ばれることがあるが、祖先の霊を冥府へ送る盆行事なので「送り火」が正しい。燃えさかる炎が照らし出した文字が消えてゆくさまを見ていると「山焼き」でないことがよくわかる。

太平洋戦争中に資材不足などで送り火が中止された時、代わって住民や児童らが白いシャツを着て山に登り、「白い大文字」を描いたという。伝統を絶やさないために人文字で実行したと京都新聞が報じた。地元の強い使命感に目頭が熱くなった。


ことしは人の少ない場所から静かに「赤い大文字」を拝みましょう。

                (京都新聞 8月9日掲載)