第54回  こだわり歳時記

紫 陽 花  

  今年は雨が多く、先月の半ば頃から走り梅雨などといわれた。しかし、その後は一転して夏日が続くなど、天候が安定しない。

 さて、いつも我々を楽しませてくれる数々の花たち。それらの名前はカタカナで書くよりも漢字の方が風流であり、名の由来がよくわかる。この時期だけでも、ハナショウブ(花菖蒲)、サラソウジュ(沙羅双樹)、ボダイジュ(菩提樹)、アジサイ(紫陽花)などがある。

 なかでも紫陽花は青空が見られない梅雨の間、暗くなりがちな庭などを明るくしてくれるありがたい花だ。花期が長く、色が薄紅、薄紫、青、紅と七変化するので人気がある。


 上の写真は紫陽花で有名な藤森神社(京都市伏見区)で撮影したもの。これは額紫陽花で、中心の小さな花を取り囲むように咲く装飾花が扁額のように見えるのでこう呼ばれる。まり状に咲く紫陽花に比べ、額はほぼ平らに咲き、清楚で少しさびしい感じがするが私は好きだ。
 ある葬儀でのこと。多くの弔電が読まれる中、働き盛りの娘さんを亡くした父親の友人からと断ってから、次の一句が紹介された。
 紫陽花や 娘を先に 野辺送り
式場のあちこちからすすり泣きの声が聞こえてきた。私もこみ上げる涙を止めることができなかった。突然逝った彼女と残された家族の悲哀をこの一句が物語っている。

 この式は東京だったので出席をためらった。しかし行ってよかった。車中で少し時間が持てたことで、その人となりを思い出しながら、反省したり今後の教訓にしたり、得るところが多かった。故人が時間を与えてくれたのである。

 忙しいからと言って不義理をせず、こうした機会にゆっくり物事を考え、自分を振り返るのも大切なことである。
                (京都新聞 6月14日掲載)