第51回  レンズ越しの風景

光と影


  二月が平年より暖かかったせいで桜の開花が早まるそうである。梅がやっと咲き出したばかりで季節の不順さに戸惑ってしまうが、いよいよ花が咲き競う好季節の到来である。


およそ170年前、光を銀に感光させ定着させる写真術が発明された。光と影を正確に記録するというすぐれた特性でどんどん進化を遂げる。やがて記録だけにとどまらず、表現方法のひとつとして注目され「光と影の芸術」とよばれるようになった。


そこで今回は今までとは異なった花の撮影方法を紹介しよう。花を直接撮影するのでなく、その影を写すという間接的な表現法である。
歩道を行く人の影などを撮影するのなら冬至の頃がベストだ。太陽の高さが最も低いので、影が長くなり力強くなるからである。ところが彼岸が近づいてくると影もやわらかく、そして温かく感じるようになる。


下の写真は京都市伏見区の醍醐寺で撮影したものである。花見の時期に参道に張り巡らされる幔幕に開花直前の桜の枝が影を落としている。右下に見えるのは醍醐寺の桜をこよなく愛した秀吉の家紋(五七の桐)である。家紋の赤色が「春」を象徴しているように見え、さらに秀吉が両手を広げて喜んでいるようにも見える。


このように花や枝を直接写し込むのではなく影だけで見せるようにすれば鑑賞者の想像が膨らむ。画面から花の香りがただよってくるように感じられたら見事である。


長く写真をやっていると「光と影」にとても敏感になってくる。晴れた日ばかりでなく雨の日でも光と影はある。


 花見を楽しんだ秀吉ははたして幕に映った花の影も楽しんだのであろうか。

                  (京都新聞 3月8日掲載)