第45回  レンズ越しの風景

町家を写す

  町家がブームである。住まいとしてだけでなく、町家をイメージしたレストランなども多い。しかも和食のみならず、洋食や中華の店まである。この人気はどこから来るのか?

  それは一言でいえば日本文化の再認識だろう。戦後、西洋化一辺倒で復興をめざしてきたが、それが成し遂げられた今、我々は失った日本的なものを取り戻そうと動き始めた。そして、若者は初めて見る「和」の美しさに西洋にはない魅力を感じ取っている。

  料理だけではなく、建築にも調度品にも日本特有の文化がある。特に長い歴史を持つ京都にはそれらが多く残されており、町家はそのひとつだ。



 上の写真は高台寺道にある工芸品のお店である。温か味のある雰囲気をソフトレンズで強調してみた。海外からの観光客はこのたたずまいを見て日本に来たことを実感するだろう。また、地方から来た人たちは日本の美しさを再発見し、それを日本の誇りと思ってくれるに違いない。

  京都市中京区には著名作家が常宿にした老舗旅館が軒を連ねている。現在でも国際的に知られる名旅館ばかりである。内部の意匠も素晴らしいが、外観だけでも見る者を魅了する。ところがそのすぐそばに高層マンションが建ってしまった。景観が破壊されるとして旅館だけではなく多くの市民が反対したがダメだった。
 
さらに、左大文字の送り火が見られなくなるかもしれないという高層マンション建設。でも施主側が理解を示し、高さが半分に抑えられた。部屋数が減ることによる経済的損失よりも住民との協調と景観保全を優先したというのだ。京都新聞が報じたが、久しぶりに聞く明るいニュースだ。

  京都の景観をテーマにした写真展を開くのは京都在住の外国人写真家が多い。彼らは京都人以上に危惧しているのであろう。
 町家の人気をブームだけで終わらせてはならない。

                      (京都新聞より転載)