第38回  カリフォルニア通信(4)


再びカリフォルニアに帰ってきました。玄関口のサンフランシスコは海に面していることや坂が多いことで日本人に親しみやすく、アメリカの都市の中では最も人気があるようです。プロ相手の大きな現像所もここにあるのでしばらく滞在しました。これはゴールデンゲートブリッジの日の出です。この橋の向こうに市街が見えるすてきな光景でしょう?

西海岸を代表する都市だけに近代美術館としては全米第2位の規模を誇るサンフランシスコ近代美術館があります。Museum of Modern Artの頭文字をとって S.F MOMA(モーマ)としてニューヨークのMOMAと並び称され、ウエストコースト美術界を代表しています。5階建ての建物はそれ自体がひとつの美術作品になっており、4階から最上階の通路を見上げたのがこの写真。歩く人の靴の裏までが見えるので驚きながらシャッターを切りました。ただし、逆にこの通路から見下ろすと階下が丸見えで恐怖を覚えます。高所恐怖症の人は絶対に通らないように。

この美術館のすぐそばにアンセル・アダムスを中心にした写真集専門の本屋さんがあります。Foto-Grafix Booksというお店で日本人の石室 順さんが運営しています。アンセル・アダムスに関する写真集はもちろん、ポスターやポストカード、カレンダーなどほとんどがそろいます。その他の作家の写真集もたくさん置いてあるのでこちらに来られた方はぜひ立ち寄ってください。サイトでもアンセルなどの作品が見られるので
http://www.friendsofphotography.org/bookstore/ にアクセスを。

さて、前にも話したカーメルの隣町モントレーにはウエストコーストの写真家たちの作品を展示している美術館があります。Monterey Museum of Art(MMA)というそれほど大きくない美術館ですがカリフォルニアの写真史を知る上ではかかせないところです。歴代の名作の展示のほか、ご覧のように「The Roots of California Photography(カリフォルニア写真の原点)」というビデオを放映している部屋があり、ゆっくりと鑑賞することができます。今回の研究テーマのひとつだけに私にとってはありがたい美術館でした。

次にアンセル・アダムスの最後の弟子であるRod Dresser(ロッド・ドレッサー)氏から受けたレクチャーを紹介します。
氏の作品は従来のシルバープリント(銀塩)で制作されており、見学した暗室は広さといい、引き伸ばし機などの機材といい素晴らしい環境です。でも、氏に言わせれば「写真家にとって最も大切な設備はゴミ箱である。納得できないプリントはどんどん捨て、最後に仕上がった<最高のプリント>だけを人に見せるべきだ」とのこと。この妥協を許さない厳しい姿勢がアンセルに負けない美しいモノクローム(黒白)プリントを生み出すのでしょう。
うれしかったのは私の研究テーマを聞いて、わざわざテストプリントを作ってくれたこと。同じネガからシルバープリントとデジタルプリント(インクジェット)の2種を作って比較して見せてくれたのです。最初見たときにはどちらがデジタルプリントかわからないほどだったのですがじっくり見ているうちにやはり黒の締りでシルバープリントに軍配が上りました。氏は「銀が不足しているのでデジタルプリントの時代が来るだろう。ただ、今の時点では銀塩印画紙が使用可能で、黒の諧調が勝っているのでまだ暗室作業をしている」と話してくれました。

また、デジタルプリントの表面をコインでこすって見せ、傷つきやすいなど改良すべき点がまだまだ多いと言いながらも「抽象のイメージ作りには大いに活用している。パソコンで作り出したイメージの風景を求めて撮影に出るようにしている」こと、「テストでA4サイズのプリントを作るときにはHP(ヒューレットパッカード)社のプリンターと用紙を使い、大判サイズでは顔料インクのエプソン社のプリンターと用紙を使用している」ことも話してくれました。会うまでは暗室一筋の作家だと思っていたのですが、ここまでデジタルを研究しているとはさすが!です。
氏はまたアンセルの写真教育の継承者として大学などが主催する写真ワークショップを通じて、アンセルの技術や彼独自の暗室技術を次の世代に継承しています。レクチャーに慣れているせいか、分かり易く説得力のある語り口にも感心しました。作品はウエストンギャラリーのサイトhttp://www.westongallery.com/artists/r_dresser/rod_dresser.htmlで見ることができます。

さて、次はシルバープリントとデジタルプリントの両分野で作品を発表しているハンティントン・ウィダリル氏(Huntington Witherill)の登場です。氏はデジタルプリントの経歴が長いだけあって数々のデータを披露してくれました。中でも各社のインクジェットを使った退色テストはメーカーに見せたくなるほどのもの。日当たりの良いテラスの壁に日付や時間を記入したプリントを張り付け、日照時間による変化をチェックしている姿はデジタルプリントを追及する作家の模範を見せられた思いでした。「顔料インクが染料インクよりも当然退色性では優れているが、もっと長持ちするようメーカーにがんばってもらいたい」と話した後で、現段階で最も優秀なのは日本のエプソン社だと聞き、うれしく思いました。

「モノクロをインクジェットでプリントすると光源で色が違って見えることや何十年持つか分からないので作品が売れにくい。ただ、暗室ではできないことがパソコンのフォトショップだと正確にできるので、フィルム・・スキャン・・フォトショップ・・インターネガ・・密着シルバープリントの順で作成している」とのことです。これはユニークな発想で、銀塩とデジタルの融合といいますか両方を知り尽くした氏だからこそ可能になった方法でしょう。アンセルの時代には考えられなかったことです。ただ、大判のインターネガの作成に大変な手間がかかるのでストレスがたまるそうです。
ところが「インクジェットのプリントでもカラーの場合には光源により色が違って見えるということは少ない。そこで最近2年間はデジカメで花のアップを撮り、それをマット紙にプリントすることでデジタルプリントならではのカラー表現にこだわっている」と話し、数枚のプリントを見せてくれました。「30年間で作ったモノクロ作品は600点だが、カラーはこの2年間ですでに600点となった」そうで、デジタルの効率の良さはすごいですね。この両者を次のサイトhttp://ordovergallery.com/witherill.htmで見ることができます。

マット紙にプリントされた美しい花たちは確かにインクジェットによる魅力を最大限引き出したものだと思います。でも私は、むしろ色を抑えたモノトーンの花たちに魅力を覚えました。これが今回の研修のひとつの答えを出してくれたのではないかと思います。
最後に、モントレーのフィッシャーマンズワーフで撮影した写真を見ていただきます。

            (オリンパスE-1 14〜54レンズで撮影)  

 
早いもので研修期間もあとわずかを残すのみとなりました。美術館やギャラリー、作家や作品などもっと紹介したかったのですがご容赦ください。研修の実習作品は明春、京都と東京で開催します報告展の会場で見ていただく予定です。

カーメル写真芸術センターの Bobbie さんを始め、レクチャーいただいた先生方、特別レクチャーで通訳をしてくれた Rumiko さんなど私を支えてくださった方々、そしてメールで励ましてくださった皆様にお礼申し上げます。

それではカリフォルニアよりGood Luck!