第28回 人物のスナップ


今までに撮りためてきた世界中の人々の写真だけで開いた個展「Bonjour!」の会場で「どうすればこのような笑顔が写せるのか?」とか「言葉の通じない相手をどうして納得させるのか?」などの質問が相次ぎました。

そこで今回は人物のスナップ方法について考えてみたいと思います。当サイトのフォトギャラリー「パリの恋人たち」などの写真を参考にして下さい。

まず最初に、私が仕事で撮る人物写真はいわゆる「商業写真」のジャンルに入るものです。たとえば航空会社のポスターなどの場合は旅に誘う目的で作られるので当然「明るく健康的な」写真が要求されます。それがハワイのワイキキビーチのキャンペーンだとすれば「楽園・パラダイス」のイメージを撮ることに専念しなければなりません。陽光きらめくビーチで真っ青な空と海を眺めながら一日のんびりと…といった「夢」を撮る必要があるわけです。

ところが雑誌のグラビアの仕事でハワイの失業問題やダウンタウンの犯罪などを取材する場合はどうでしょう。こちらは「報道」の分野でフォトジャーナリストと呼ばれる人たちが活躍しています。危険な目に会っても真実を伝えようとする毅然とした態度が要求されます。

前者と後者では伝えようとする内容が全く異なります。どちらが良いとか悪い、という事ではなく両者とも社会には必要なのです。ではそれぞれの分野のカメラマンにはどのような素質が求められるのでしょうか。

まず前者ですが撮る方も撮られる方も「明るさ」が絶対条件です。ビーチでくつろぐ人たちの笑顔をカメラマンも笑顔でシャッターを切ります。お互いに「今一番楽しいひと時なのだ!」という共通点で結ばれています。明るい性格の人がこちらの分野には向いているようです。

後者は、より正義感の強い人が向いています。真実を伝えよう、伝えて欲しいという共通項で結ばれた時に撮影が可能となります。そのため事前に問題点を十分調べておく必要があります。犯罪の取材などは片方向の時もありますがそれでも話し合えば犯罪者側の立場からの取材も可能なのです。

いずれにしても両者ともに必要なのは撮る側の心意気です。カメラを向けたら迷惑だと思うのでは?と心配しているよりも「一枚撮らせてもらえませんか?」と熱意を持った目で頼めば大抵は理解してくれるようです。少しでも不快な表情をしたらその人物は撮らないこと。そしてたとえ許可をくれた場合でもいつまでもしつこく撮影しないのがコツです。

他に、相手に気付かれずに内緒で撮る方法もありますがこれは見つかったら大変!相手を怒らせてしまい、どのような結末になるかわかりません。一度NYのハーレムを取材していて怖い思いをしたことがあります。ある店を遠くから撮ろうとしたとき店主が気付いて何か叫んでいます。すぐに中止すれば良かったのですがまだカメラを向けていたら血相を変えてこちらに向かって走り出したのです。驚いて逃げ去りましたがスマートではなかったなと思うと終日心が晴れませんでした。

ドキュメントと言える取材をしたのはこれ一回きり。もともとネアカな私には旅という「夢」を写す方が向いていたようです。そうでなければ四半世紀に渡って海外を旅できないですよね…?

それでは以上のことに留意して人物のスナップに挑戦してください。そしてくれぐれも写させてくれた人に感謝する気持ちを忘れないように…。                  (次へ)